2024年1月、日本の資産運用環境は大きな転換点を迎えました。「新NISA(少額投資非課税制度)」のスタートです。 非課税保有期間の無期限化、年間投資枠の大幅拡大(最大360万円)、そして制度の恒久化。これまでのNISAの弱点をすべて克服したかのような「神改正」に、世間の注目が一気に集まりました。
こうした背景の中、企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)の導入を検討されていた経営者様から、次のような迷いの声をいただくことが増えています。
「国がこれだけ充実した制度(新NISA)を用意してくれたのだから、個人の資産形成は個人の自助努力に任せればいいのではないか?」
「わざわざ会社がコストと手間をかけてまで、企業型DCを導入するメリットはあるのか?」
「社員も、会社に縛られるより、自分で自由に使えるNISAを望んでいるのではないか?」
そのお気持ち、痛いほどよく分かります。確かに、個人投資家としての視点だけで見れば、新NISAは非常に優れた制度です。 しかし、「会社経営者」の視点、そして「長期的な資産形成の効率」という視点で分析すると、新NISAだけではカバーしきれない「決定的な弱点」が見えてきます。
今回は全2回にわたり、プロの視点で「新NISAと企業型DCの決定的な違い」を徹底解説します。前編のテーマは、NISAには真似できない「トリプル節税効果」と「社会保険料削減」のインパクトについてです。
最大の違いは「入り口」にあり:資金の出処が違う
新NISAと企業型DCは、どちらも「投資信託などで運用し、資産を増やす」という点では同じです。また、「運用して増えた利益(運用益)に税金がかからない」という点も共通しています。 しかし、お金を積み立てる「入り口(掛金)」の税制上の扱いが、天と地ほど異なります。
1. 新NISAは「手取り」からの拠出
新NISAの原資は、あくまで個人の資産です。給与として支給され、そこから所得税・住民税、そして厚生年金・健康保険などの社会保険料が引かれた後の「手取り(可処分所得)」から投資を行います。 つまり、スタート地点ですでに、額面の約20%〜30%(年収による)が税金等で目減りしている状態です。
2. 企業型DCは「税引前」からの拠出
一方、企業型DCの掛金は、税法上「給与」とはみなされず、会社の「福利厚生費」あるいは「事業主掛金」として扱われます。 個人の給与所得に含まれないため、所得税や住民税がかかる前の「額面金額」を、そのまま1円も減らすことなく自分の年金口座へ移動できるのです。
投資の世界では「運用利回り」が重視されますが、「拠出時にお金が減らない(課税されない)」という効果は、どんな高利回り商品よりも確実かつ強力なリターンと言えます。
経営者を悩ませる「社会保険料」への特効薬
この「入り口」の違いが、経営者様にとって最も大きなメリットを生み出します。それが「社会保険料の適正化(削減)」です。
ご存知の通り、日本の社会保険料負担は年々重くなっています。役員報酬を上げれば、その約30%(労使合計)もの社会保険料が追加で発生します。 「自分の老後資金のために役員報酬から月5万円をNISAで積み立てよう」と考えた場合、その5万円には高額な社会保険料がかかっています。さらに、会社側も同額の社会保険料を負担しなければなりません。
しかし、企業型DC(特に選択制DC)を活用し、役員報酬の一部(月額最大55,000円)を掛金として拠出すれば、その分は社会保険料の算定基礎となる「標準報酬月額」から外れます。
【シミュレーション:月額55,000円を拠出する場合】 (※年収や等級によりますが、一般的な目安として)
- 個人の効果: 所得税・住民税・社会保険料が安くなり、手取りへの影響を最小限に抑えながら55,000円の積み立てが可能。
- 会社の効果: 社長1人あたり、年間約10万円前後の法定福利費(社会保険料の会社負担分)が削減される可能性があります。
もし役員や従業員を含めて10人が加入すれば、年間で100万円規模のキャッシュフロー改善が見込めます。 NISAは「個人の財布」を守る制度ですが、企業型DCは**「会社の金庫」も守る制度**なのです。この違いは経営において無視できません。
忘れてはいけない「3つの出口」
企業型DCの節税メリットは「入り口(掛金拠出時)」と「中身(運用益非課税)」だけではありません。「出口(受取時)」にも強力な優遇があります。
- 退職所得控除: 一時金として受け取る場合、退職金扱いとなり、勤続年数に応じた大きな非課税枠が使えます。
- 公的年金等控除: 年金として受け取る場合も、公的年金と同じ控除が受けられます。
新NISAは「運用益が非課税」になるだけですが、企業型DCは「①掛金拠出時」「②運用期間中」「③受取時」の3つのタイミングすべてで税制優遇が受けられる、国が用意した”最強の優遇制度”なのです。
後編では、社員様への説明方法や、NISAとDCをどう組み合わせるのが正解か、具体的な「賢い使い分け術」について解説します。
しかし、もし今、「自社で導入した場合の具体的な数字が知りたい」と思われたなら、後編を待たずに一度シミュレーションを行ってみてください。 多くのケースで、導入・運営コスト以上の削減メリットが出ています。「新NISAか企業型DCか」でお悩みなら、まずは数字を見て判断してみませんか?
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